C++編で扱っている C++ は 2003年に登場した C++03
という、とても古いバージョンのものです。C++ はその後、C++11 -> C++14
-> C++17 -> C++20 -> C++23 と更新されています。
なかでも C++11 での更新は非常に大きなものであり、これから C++
の学習を始めるのなら、C++11
よりも古いバージョンを対象にするべきではありません。特に事情がないなら、新しい
C++ を学んでください。 当サイトでは、C++14 をベースにした新C++編を作成中です。
この章の概要です。
イテレータ(反復子)は、コンテナに含まれる複数の要素に対する反復処理を行うためのオブジェクトです。反復処理というのは、各要素に順番に何らかの処理を行っていく操作のことを言い、走査とも呼ばれます。
STLコンテナの場合、イテレータは、コンテナが持つ beginメンバ関数 と endメンバ関数 によって取得できます。beginメンバ関数は、コンテナの先頭要素を指すイテレータを、endメンバ関数は、コンテナの末尾要素の1つ先を指すイテレータを返します。
beginメンバ関数や endメンバ関数が返す型は、コンテナごとに別個に定義された型であり、たとえば、vector にとってのイテレータと、map にとってのイテレータとでは別の型になります。このように別の型になっているのは、走査の方法はデータ構造の種類によって異なるものだからです。
beginメンバ関数や endメンバ関数が返す型は、具体的には、std::Container<>::iterator型、あるいは std::Container<>::const_iterator型です(Container には、vector や map などのコンテナクラス名が入る)。
以降、std::Container<>::iterator型を iterator型、std::Container<>::const_iterator型を const_iterator型と表記します。
非const関数版の begin/endメンバ関数の場合は、iterator型を返し、const関数版のbegin/endメンバ関数の場合は、const_iterator型を返すということですが、iterator型から const_iterator型へは、暗黙的に型変換できるので、つねに、const_iterator型で受け取ることは可能です。
逆に、const_iterator型から iterator型への暗黙の型変換はできません(明示的な型変換を行う方法について、「イテレータの変換」の項で取り上げます)。
イテレータは、ポインタを真似て作られているので、使用感はポインタと似ています。指し示す先の要素の型を T とすると、iterator が T*型のようなものであり、const_iterator は const T*型にあたります。そのため、const_iterator の場合は、指し示している先の要素を書き換えることができません。
iterator や const_iterator がどのように定義・実装されているかは、標準ライブラリの実装者に裁量に任されています。vector の場合、本当に iterator が T* の typedef であり、const_iterator が const T* の typedef であることがあり得ますが、そうでないこともありますから、イテレータを本当にポインタのように扱ってはいけません。使用感が似ているのであって、同一のものではありません。
一例として、イテレータを使って、list を走査する例を示します。
#include <iostream>
#include <list>
int main()
{
typedef std::list<int> IntList;
const int table[] = {0, 1, 2, 3, 4};
(table, table + 5);
IntList lst
::const_iterator itEnd = lst.end();
IntListfor (IntList::const_iterator it = lst.begin(); it != itEnd; ++it) {
std::cout << *it << "\n";
}
std::cout << std::flush;
}
実行結果:
0
1
2
3
4
list の代わりに、vector や deque、set や map といった、他の STLコンテナを使っても同じです。
配列は、STLコンテナではないですし、そもそもクラスですらないので、beginメンバ関数や endメンバ関数はありませんが、ポインタをイテレータとみなして、同等の処理を行うことが可能です。
beginメンバ関数や endメンバ関数が使わなくても、次のように、イテレータと同じ形のままプログラムを書けます。
#include <iostream>
int main()
{
const int table[] = {0, 1, 2, 3, 4};
const int* const itEnd = &table[5];
for (const int* it = table; it != itEnd; ++it) {
std::cout << *it << "\n";
}
std::cout << std::flush;
}
実行結果:
0
1
2
3
4
STLコンテナから得られるイテレータについて、その使い方を考えても分かるように、対象のデータ構造によって、イテレータが持つ機能には違いがあります。
たとえば、vector に対するイテレータであれば「n個先の要素を指すように一気に進ませる」ことができます。一方、set に対するイテレータでは、「1つ先の要素へ進ませる」ことはできますが、「n個先」となると直接的には実現できず、「1つ先へ」をn回繰り返すしかありません。この例は、添字を使ったランダムアクセスができる構造と、できない構造の違いから来ています。
結局、set でも「n個先の要素を指すように進ませる」ことはできている訳ですが、その効率には大きな差があります。vector では「1個先」でも「1000個先」でも、その効率に違いがありませんが、set では 1000倍違う訳です。
STL では、イテレータの機能性を、5つのカテゴリで表現しています。
入力イテレータは、1つ1つ先の要素へと進むことができ、その値を読み取る機能だけを持ちます。このカテゴリのイテレータは、以下の演算が行えます。
演算 | 内容 |
---|---|
* (間接参照) | 指し示す先の要素への読み取り専用アクセス |
-> | 指し示す先の要素のメンバに対する読み取り専用アクセス |
++ (前置インクリメント) | 要素1つ分、先へ進み、新しい位置を返す |
++ (後置インクリメント) | 要素1つ分、先へ進み、前の位置を返す |
== | 2つのイテレータが等しいかどうかを返す |
!= | 2つのイテレータが等しくないかどうかを返す |
コピーコンストラクタ | イテレータをコピーする |
このカテゴリのイテレータは、指し示す先を、手前側に戻す手段がありません。そのため、各要素は1回だけしか参照できません。また、読み取り専用であり、要素を書き換えることもできません。
== と != に関しては、2つのイテレータが同じ場所を指しているとき、等しいとみなされます。
このカテゴリに属するイテレータの例としては、入力ストリームイテレータ(第31章参照)があります。
出力イテレータは、1つ1つ先の要素へと進むことができ、要素へ値を書き込む機能だけを持ちます。このカテゴリのイテレータは、以下の演算が行えます。
演算 | 内容 |
---|---|
* (間接参照) | 指し示す先の要素への書き込み専用アクセス |
++ (前置インクリメント) | 要素1つ分、先へ進み、新しい位置を返す |
++ (後置インクリメント) | 要素1つ分、先へ進み、前の位置を返す |
コピーコンストラクタ | イテレータをコピーする |
出力イテレータは、入力イテレータとは逆に、書き込み専用です。
出力イテレータには、== や != といった比較の演算が定義されていません。そのため、末尾に達したかどうかを知る手段もないですが、末尾を気にせずに書き込みを続けて構わないことになっています。つまり、以下のコードは有効です。
while (true) {
*it = 999;
++it;
}
このカテゴリに属するイテレータの例としては、出力ストリームイテレータ(第31章参照)や挿入イテレータ(第25章参照)があります。
前方イテレータは、入力イテレータと出力イテレータの両方の特徴を持ったものです。つまり、1つ1つ先の要素へと進むことができ、指し示す先の要素の読み書きが行えます。このカテゴリのイテレータは、以下の演算が行えます。
演算 | 内容 |
---|---|
* (間接参照) | 指し示す先の要素への読み書き両用アクセス |
-> | 指し示す先の要素のメンバに対する読み書き両用アクセス |
++ (前置インクリメント) | 要素1つ分、先へ進み、新しい位置を返す |
++ (後置インクリメント) | 要素1つ分、先へ進み、前の位置を返す |
== | 2つのイテレータが等しいかどうかを返す |
!= | 2つのイテレータが等しくないかどうかを返す |
デフォルトコンストラクタ | イテレータを生成する |
コピーコンストラクタ | イテレータをコピーする |
代入 | イテレータを代入する |
出力イテレータの機能を備えていますが、少しだけ違いがあることに注意してください。出力イテレータの場合、末尾を気にせずに書き込みを続けられますが、前方イテレータでは、末尾を超えるとエラーになります。そのため、以下のように、終端のチェックを行うようにしてください。
while (it != container.end()) {
*it = 999;
++it;
}
このような差異があるので、前方イテレータは、入力イテレータから派生しているとはいえますが、出力イテレータから派生しているとは言えません。
実のところ、このカテゴリに属するイテレータの例はありませんが、前方イテレータの機能を継承したカテゴリがあり、そちらに属するイテレータがあります。
双方向イテレータは、前方イテレータの機能を継承しており、そこへさらに、1つ手前の要素へ戻る機能を追加しています。このカテゴリのイテレータは、前方イテレータの機能に加えて、以下の機能を持ちます。
演算 | 内容 |
---|---|
– (前置デクリメント) | 要素1つ分、手前へ戻し、新しい位置を返す |
– (後置デクリメント) | 要素1つ分、手前へ戻し、前の位置を返す |
このカテゴリに属するイテレータには、list、set/multiset、map/multimap のイテレータがあります。
ランダムアクセスイテレータは、双方向イテレータの機能を継承しており、そこへさらに、ランダムアクセスの機能を追加しています。このカテゴリのイテレータは、双方向イテレータの機能に加えて、以下の機能を持ちます。
演算 | 内容 |
---|---|
[] | n番目の要素にアクセスする |
+ (加算) | 要素n個分、先を指すイテレータを返す |
- (減算) | 要素n個分、手前を指すイテレータを返す |
+= | 要素n個分、先へ進む |
-= | 要素n個分、手前へ戻る |
- (イテレータ同士の減算) | 2つのイテレータの差(距離)を返す |
< | 左辺のイテレータの方が、右辺のイテレータより手前にあるかどうかを返す |
<= | 左辺のイテレータの方が、右辺のイテレータより後ろにないかどうかを返す |
> | 左辺のイテレータの方が、右辺のイテレータより後ろにあるかどうかを返す |
>= | 左辺のイテレータの方が、右辺のイテレータより手前にないかどうかを返す |
このカテゴリに属するイテレータには、vector、deque、basic_string のイテレータがあります。また、配列に対するイテレータ(ポインタ)も、ここに含まれます。
std::advance関数を使うと、イテレータを任意の要素数分だけ、先へ進めたり(その機能を持ったカテゴリのイテレータであれば)前に戻したりできます。advance関数は、<iterator> という名前の標準ヘッダに含まれています。
advance関数は、第1引数にイテレータを指定し、第2引数に進めたい要素数を指定します。戻り値はなく、第1引数に指定したイテレータ自体が変更されることで、結果を得ます。
第1引数に指定できるのは、入力イテレータカテゴリおよびそこから派生しているカテゴリに属するイテレータです。なお、この引数は参照になっており、渡したイテレータ自体が変更されます。
第2引数には負数を指定できますが、実際に手前側に移動できるのは、その機能を持っている双方向イテレータと、ランダムアクセスイテレータに限られます。
#include <iostream>
#include <list>
#include <iterator>
int main()
{
typedef std::list<int> IntList;
const int table[] = {0, 1, 2, 3, 4};
(table, table + 5);
IntList lst
::const_iterator it = lst.begin();
IntListstd::advance(it, 3);
std::cout << *it << std::endl;
std::advance(it, -1);
std::cout << *it << std::endl;
const int* p = table;
std::advance(p, 3);
std::cout << *p << std::endl;
std::advance(p, -1);
std::cout << *p << std::endl;
}
実行結果:
3
2
3
2
advance関数は、イテレータがコンテナの末尾を超えるかどうかを判断できないので、末尾を超えてしまうような移動は、未定義の動作になることに注意してください。当然、先頭よりさらに手前側への移動も同様です。
advance関数は、イテレータのカテゴリを判断して、それに応じた実装が使用されるようになっています。
たとえば、第1引数に、ランダムアクセスイテレータ以外のイテレータを指定し、第2引数に、1 より大きい値(または -1 より小さい値)を指定した場合、++演算子や –演算子を繰り返し実行することによって、指定した要素数分の移動を実現します。そのため、効率面では大きく劣ることに注意してください。advance関数を使うことで、イテレータカテゴリの違いを気にせず、移動という処理を汎用化できますが、特別、性能がよくなるわけではありません。
【上級】これを実現するために、特性という仕組みが利用されています。
std::distance関数を使うと、2つのイテレータ間の距離を調べられます。distance関数は、<iterator> という名前の標準ヘッダに含まれています。
distance関数には、2つのイテレータを指定しますが、ともに同じコンテナの要素を指す、入力イテレータ(派生カテゴリでも良い)で無ければなりません。
また、第1引数で指定したイテレータの方が、第2引数で指定したイテレータより手前側または同じ位置を指している必要があります。この要件を満たしていない場合、未定義の動作になります。
#include <iostream>
#include <list>
#include <iterator>
int main()
{
typedef std::list<int> IntList;
const int table[] = {0, 1, 2, 3, 4};
(table, table + 5);
IntList lst
::const_iterator it = lst.begin();
IntListconst IntList::const_iterator itEnd = lst.end();
std::advance(it, 3);
std::cout << std::distance(it, itEnd) << std::endl;
const int* p = table;
std::advance(p, 3);
std::cout << std::distance(p, table + 5) << std::endl;
}
実行結果:
2
2
distance関数は、イテレータのカテゴリを判断して、それに応じた実装が使用されるようになっています。
ランダムアクセスイテレータの場合は、単に「it2 - it1」とすることで距離を計算できるので非常に効率的ですが、他のカテゴリのイテレータの場合は、it1 が it2 に出会うまで ++演算子を適用し続けるような実装になるので、かなり重い計算になり得ます。
std::iter_swap関数を使うと、2つのイテレータが指す先にある要素同士を交換できます。iter_swap関数は、<algorithm> という名前の標準ヘッダに含まれています(この関数は iterator には含まれません)。
2つのイテレータは、前方イテレータカテゴリに属している必要があります。それぞれが、別のコンテナを指すイテレータであっても構いませんが、要素同士は相互に代入できる型でなければなりません。
#include <iostream>
#include <list>
#include <algorithm>
int main()
{
typedef std::list<int> IntList;
int table[] = {0, 1, 2, 3, 4};
(table, table + 5);
IntList lst
::iterator it = lst.begin();
IntListconst IntList::iterator itEnd = lst.end();
std::advance(it, 3);
std::iter_swap(lst.begin(), it);
for (it = lst.begin(); it != itEnd; ++it) {
std::cout << *it << " ";
}
std::cout << std::endl;
int* p = table;
std::advance(p, 3);
std::iter_swap(table, p);
for (p = table; p != table + 5; ++p) {
std::cout << *p << " ";
}
std::cout << std::endl;
}
実行結果:
3 1 2 0 4
3 1 2 0 4
iterator から const_iterator へは、暗黙的に型変換できますが、逆はできません。キャストもできません。
「const は積極的に使うべきである」というのが C++ の基本であり、その考え方をイテレータにも適用すれば、const_iterator が使えるのなら、iterator よりも優先して使うべきだと言えます。しかし、STL の関数の中には、変更が必要でないのにも関わらず、引数の型が const_iterator ではなく iterator になっているものがあります。そのため、const_iterator から iterator へ、簡単に変換できることが望ましいのです。
残念ながら、const_iterator から iterator へ変換する分かりやすい方法はありませんが、advance関数と distance関数を利用することで、目的を果たすことは可能です。
#include <iostream>
#include <list>
#include <iterator>
int main()
{
typedef std::list<int> IntList;
const int table[] = {0, 1, 2, 3, 4};
(table, table + 5);
IntList lst
// 4番目の要素を指す const_iterator を作る
::const_iterator cit = lst.begin();
IntListstd::advance(cit, 3);
::iterator it = lst.begin(); // 先頭を指す iterator
IntListstd::advance(it, std::distance<IntList::const_iterator>(it, cit)); // const_iterator を iterator に変換
.insert(it, 9);
lst
const IntList::const_iterator citEnd = lst.end();
for (cit = lst.begin(); cit != citEnd; ++cit) {
std::cout << *cit << " ";
}
std::cout << std::endl;
}
実行結果:
0 1 2 9 3 4
list の insertメンバ関数に渡すイテレータは、const_iterator ではなく iterator です。このプログラムで言えば、it を渡すことはできますが、cit を渡すことはできません。
const_iterator から iterator に変換するには、以下の手順を取ります。
結果、iterator は、const_iterator と同じ位置を指すようになりますから、変換(というか複製が)できたことになります。
少々厄介なことに、distance関数に渡す2つの引数が、それぞれ iterator と const_iterator になるため、型が一致せず、テンプレート実引数の型推測に失敗します。そこで、明示的にテンプレート実引数を指定する必要があります(このとき、当然 const_iterator の方を指定します)。
なお、advance関数も distance関数も、ランダムアクセスイテレータであれば効率的ですが、他のカテゴリのイテレータの場合は、非効率な処理になることに注意が必要です。そのため、そもそも const_iterator を使うことを諦めることも、有力な手段として検討するべきです。
問題① どの STLコンテナに対しても使えるように、すべての要素の値を標準出力へ書き出す、関数テンプレートを作成してください。
コンパイラの対応状況について、対応している場合は明記しない方針にした。
clang 3.7 (Xcode 7.3) を、Xcode 8.3.3 に置き換え。
VisualC++ 2017 に対応。
clang の対応バージョンを 3.7 に更新。
「C++14 (非メンバ関数の
cbegin、cend)」の項を追加。
いくつか、実行結果が抜けていたサンプルに、実行結果を付加。
「この章の概要」に、C++11/14
の各項へのリンクを追加。
新規作成。
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